施術を決める瞬間、患者様の心は期待と不安の間を行き来します。空間は、その揺れを受け止めて前向きな一歩へ導く“静かな伴走者”であるべきです。本稿では、美容クリニックの意思決定を支える空間デザイン心理の要点を、実装しやすい順に株式会社SPACE PRODUCEの小林佐理が解説します。
動線と見通しを整える
入口から受付、待合、カウンセリング、施術、会計までの流れを一筆書きに近づけると、迷いが減り緊張が和らぎます。通路の正面に行き先サインを置き、曲がり角の先に受付やドアの“気配”が見えるよう視線の抜けを確保します。待合は通行の動線から半歩外し、座る人と歩く人の視線がぶつからない角度で配置すると落ち着きが生まれます。照明は電球色を基調にし、顔の影をつくらないよう天井と間接光を組み合わせると、会話が始まりやすくなります。
視線と音をやさしく管理する

緊張の多くは「見られるかもしれない」「聞かれるかもしれない」という想像から生まれます。前室や廊下の仕切りにフロストガラス(光は通し、形や表情をぼかすガラス)を使い、気配は伝えて表情は守る設えにします。受付背面と天井の一部に吸音パネル(音を吸収する仕上げ材)を入れると、声量を上げなくても届き、会話が秘匿されている安心感が高まります。扉はソフトクローズ丁番(静かに閉まる機構)で開閉音を抑え、床はカーペットタイルを用いて足音と反響を減らします。小さな静けさの積み重ねが、判断の背中を押します。
待ち時間を“理解の時間”に変える
待つ理由と見通しが分かるだけで、同じ時間の体感は短くなります。受付脇に「本日の流れ」を一枚掲示し、自分の位置が把握できる状態を保ちます。待合には肌模型や機器の素材サンプルを置き、触れて理解できる小さな展示を用意します。情報量は控えめにし、1枚1情報を徹底すると読み疲れがありません。香りは微香で切り替え、待合は柑橘系、施術前室はラベンダー系など、気持ちのスイッチを自然に促します。強い香りは避け、空調と換気で一定のクオリティを保ちます。
医療スタッフの皆さまが信頼を伝える場に
信頼は説明の内容だけでなく、場の秩序からも立ち上がります。カウンセリング席の背面収納は使用頻度順に一列でまとめ、腕の届く高さに“よく使う物”だけを残します。机は正対ではなく45度の斜め配置にし、同じ資料を見る“並走”の距離感をつくります。ナースステーションは患者様の視界から直接外しつつ、稼働の気配が伝わる位置に計画すると安心が続きます。サインやラベルの表記は漢字・かなのバランスを統一し、専門語には小さな注釈を添えると、説明前から理解が進みます。
小さく始めて、確実に変える
全面改装をしなくても体感は動きます。まずは三点、①受付背面の吸音化、②導線サインの再設計(色・位置・言い回しの統一)、③カウンセリング席の45度配置を行います。次に、通路の見通し確保とドア金物の静音化、待合の掲示情報の整理に進むと、来院から退院までの“つまずき”が減ります。院ごとに課題の位置は異なるため、現状図面と来院動線の実測を合わせて優先順位を決めると、投資対効果が明確になります。
用語メモ
- フロストガラス:光を通しつつ視界をぼかすガラス。気配は伝え、個人情報を守る。
- 吸音パネル:音の反射を抑える仕上げ材。会話の聞き取りと秘匿性を高める。
- ソフトクローズ丁番:扉が静かに閉まる金物。衝撃音と無用な緊張を避ける。
最後に
ぜひお問い合わせフォームからお気軽にお問い合わせください。株式会社SPACE PRODUCEでは、働く方のエンゲージメント調査やヒアリングを実施し、ただの設計・内装作業にとどまらず、経営者、従業員の皆さまにとって、より良いオフィス空間をご提供いたします。



