美と医療の境界設計

#クリニック


医療の正確さと、美の感性が同じ場所で矛盾なく働くためには、空間の“情報の伝わり方”を丁寧に計画することが要となります。視線・音・光・温熱・素材の手触りが穏やかに共鳴すると、患者様には落ち着きが、医療スタッフの皆さまには確かな作業感が生まれます。株式会社SPACE PRODUCE 小林佐理が解説します。

二つの精度を一つの体験に重ねる

医療の安全性と美容の上質さは対立する概念ではありません。空間の要素を段階的に整え、患者様が受け取る“解像度”を適切に保つことで、検査・処置の確かさと、審美の心地よさが同じ体験の中に収まります。言葉(サインや案内)と設計意図が同じ方向を向くほど、院内の理解が自然にそろいます。

不安は“多すぎる情報”と“足りない情報”の間で生まれる

視線が遠くまで抜け続ける環境は落ち着きを損ない、音が広がり続ける環境は対話の質を曇らせます。かといって、様子がまったく読めない空間は緊張を高めます。そこで、視線は届き方に段差をつくり、音は輪郭が柔らかく感じられる状態を目指します。光は眩しさを避けながら顔色が自然に見える明るさに整え、温熱は風が直接顔に当たらない計画とします。こうした“ちょうどよさ”が、安心と信頼の土台になります。

※用語メモ:ゾーニング=機能ごとに場を分ける考え方。ビューライン=姿勢や位置で決まる視線の通り道。フロストガラス=光は通し、細部を曖昧にする素材。


設計視点①:受付・待合と光の扱い

受付は、所作が伝わりつつ個人情報が外に漏れない状態が望ましい場です。カウンター天板高はおおよそH900mm、手元を覆う立ち上がりはH150〜200mmが目安。背面にはフロストやリブガラスを用い、運営の気配だけが柔らかく感じられるようにします。床は明度の高い石調、壁はマット仕上げとすると、反射が抑えられ視認性が安定します。


光は、水平面300〜400lxを基準に壁面ウォッシュを加えると、顔の影が浅くなり、表情が明るく見えます。待合の座席は入口の正対からわずかに角度を外すと、視線の衝突がやわらぎます。案内表示は短い言葉で、曲がり角の手前や扉の把手付近など、行動の直前に視界へ入る位置が効果的です。


設計視点②:対話と施術の環境づくり

カウンセリングは、声と表情のニュアンスが安心して交わせる場であることが大切です。天井まで届く壁と気密性のある扉で会話音の漏れを抑え、上部の細い開口にはフロストを用いて採光だけを受け取ります。机の奥行は600〜700mm、椅子の背角は100〜105度程度が落ち着いた距離感の目安です。

座る位置は、患者様が出入口に背を向けない配置にすると、周囲への意識が過剰になりません。
施術室では、吸音天井やソフトクローズ金物で衝撃音・隙間音のストレスを減らします。局所換気は薬剤臭が短い経路で外へ流れる計画とし、待合側に回り込まない風下を選びます。

照明は施術面300〜500lx、壁面はやわらかな間接光とすると、肌の凹凸が過度に強調されず、確認作業も落ち着いて行えます。清潔・不潔の置き場所は視覚的にも区別がつくように配し、動作の順序が迷いなくたどれる構成が望ましいあり方です。

最後に

ぜひお問い合わせフォーム からお気軽にお問い合わせください。株式会社SPACE PRODUCEでは、働く方のエンゲージメント調査やヒアリングを実施し、ただの設計・内装作業にとどまらず、経営者、従業員の皆さまにとって、より良いオフィス空間をご提供いたします。