事業拡大などに伴うオフィス移転や新設を考える場合、デザイン、レイアウト決めなど、楽しいことも多いですが、法律の観点で満たさなければいけない基準もあるのです。「建築基準法」「消防法」「労働安全衛生法」など。ここではオフィスを新しくしたいと考えている人たちへ向けて、オフィスレイアウトに関係のある代表的な法令などを紹介します。
建築基準法とは
建築基準法とは、建築物の構造や設備などについて、生命の安全や健康の視点から「最低基準」定めている法律のことです。安全面としては防火や防災の規定、健康・衛生面としては換気や採光(外光がどれだけ取り入れられるか)や建材として使われている石綿に関する規定など、細かく定められています。それらはオフィスレイアウトにも関わってきます。
これは新設の際に関する部分で、賃貸を考えている会社には直接関係はありませんが、耐震性や排煙設備には法令基準があり、これを満たしている必要があります。賃貸で借りるオフィスは、すでにその基準を満たしているものが多いでしょうが、そこに出入りする人たちの安全にも関わることなので、どうなっているのかを知っておいて損はないでしょう。
また、移転等で移った新しいオフィス内で行う業務内容が、その建築物の中で行うことが可能なのか、危険性はないかなどを、建築物の構造設計上の基準と照らし合わせて見る必要があります。そして、建築基準法では地上まで続いている直通階段までの距離も定められていて、ビルの14階以下で居室のもっとも階段から離れた位置から60m以内、15階以上で50m以内にする必要があります。ただし、こちらも賃貸オフィスであるならば、あまり気にする必要はないでしょう。
オフィスの動線を考える上で意識すべき規定
オフィスレイアウトを考える上で、建築基準法の規定に準ずる必要がありますが、その範囲は動線にも及びます。以下の規定を満たす動線設計をする必要があるのです。なお、オフィス内のデスク間などの「通路」については、下記に当てはまりません。
・壁に面して居室がない、または片側居室(廊下の片側の面に部屋がある)の廊下:120センチメートル以上
・両側居室(廊下の両面の壁に部屋がある)の廊下:160センチメートル以上
消防法について
オフィスレイアウトを考えていく上で、消防法の規定も満たす必要があります。消防法は火事への備えに関する法律で、各種届出が求められる場合があります。
パーテーションでゾーニングするときの注意点
オフィス移転、改装などでゾーニングを行う場合に、パーテーションを利用したりすることもありますが、その際に消防法への注意は必要です。天井まで届く仕切りを作った場合、消防署への届出が必要になります。手続きを怠らないようにしましょう。
消防法の考え方として、天井まで届く仕切りは、空気の流れを遮断することになりますから、それぞれ空間が別々の部屋という認識となります。そうすると、火災が発生した場合の排煙、消火活動に必要なスプリンクラーや火災感知器などを、それぞれに設置することが義務付けられています。
レイアウト変更によって、新たなスペースを構築しようと考えている場合は特に注意が必要でしょう。法令遵守の観点だけでなく、そのオフィスで一緒に働く人の命を守る意味でも、消防法の基準を満たしたオフィスレイアウトを考えることが大切になります。
消防設備についての規定
消防法上「消火・排煙できる構造」になっていることが必要要件です。賃貸契約でオフィスを借りる場合、下記はすでに満たしている場所が多いはずとはいえ、上記のようなパーテーションを設置して、オフィスレイアウトを変更したいと考えている場合は、注意が必要です。
具体的には、消防設備は「床面積500㎡以内ごとに、火災が起きてしまった時の排煙設備、機能が備わっていなければなならない」のです。
排煙の方式は排煙口が直接外気に接する(1)自然排煙設備、排煙口を排煙風道に直結させる、(2)機械排煙設備の2種類があり、床面積を500㎡以内ごとに防煙壁で区画し、その中で排煙口(自然排煙設備)や機械排煙設備は、排煙口から一番遠い位置から、水平距離30m以内に設置しなければなりません。
排煙口設置のルール
また、そのほかにも、自然排煙の排煙口(窓)には、「建築基準法施行令第126条の3」による規定が存在します。具体的には、排煙口の面積は床面積の1/50以上の大きさが必要となります。また、排煙口として有効とされる設置位置は、部屋の高さによって条件が異なります。
部屋の天井までの高さが3メートル以内の場合は、天井からの高さ80cm以内に設置する必要があります。天井の高さが3mを超える場合は、部屋の高さの1/2以上、なおかつ2.1m以上の高さの位置に設置しなければなりません。
煙のことなので、単位として一般人にはイメージしにくいのですが、機械排煙設備の排煙能力は1分間あたり120立方メートル以上で、かつ防煙区画の床面積1平方メートルにつき毎分1立方メートルの排出する能力を有すること(機械排煙設備が2箇所を越える防煙区画に接続されている場合は、毎分2立方メートル)が必要とされます。
労働衛生法について
オフィス移転を検討する場合に、新オフィスのレイアウトで考慮すべきものに、労働安全衛生法というものもあります。この法律では、作業環境を快適な状態で維持するように努めることを定めています。
具体的な基準として事務所衛生基準規則があります。オフィス移転や新設に伴って、設計・デザインの機会には、この基準規則も考慮することが求められます。
ポイント1:気積
中でも大事なポイントの1つは気積です。気積とは、労働者が常時働く場所にて十分に空気が得られるようにしようというものです。原則として労働者1人あたりの気積が10立方メートル以上と規定されています。
ポイント2:照明
もう1つ大事なポイントが照明です。明暗の著しい差が発生せず、また、まぶしくないようにすることとされています。ものを凝視したりする精密作業を行うデスク面の照度は300ルクス以上、通常の作業の場合は150ルクス以上と決められており、6カ月以内に1度は定期点検することが義務付けられています。
しかし、上記で定めている数値は「最低照度」。ルクスという単位に馴染みのない人のために補足すると、おそらく、多くの人が150ルクスのオフィス環境に身を置いたとき、「暗い」と感じるはずです。その数値を下回る場合、健康や仕事の精度に悪影響を及ぼしかねないだけでなく、事業者は罰則の対象となる可能性もあるので注意したいところです。
実際に照度設定の基準は、オフィスの場合、以下のようになります。こちらは国家規格ではあるものの、法規ではないため、必ずしもこれに適合していなければならない訳ではありません。あくまで目安とするためのものです。
執務室(ワークスペース)・・・750ルクス
役員室・・・750ルクス
エントランス(昼間)・・・750ルクス
会議室・・・500ルクス
書庫・・・200ルクス
まとめ
オフィス移転や新設に伴い、オフィスレイアウト、ゾーニングを行う場合は、法令に適合しているかどうかのチェックを行うことも大切です。ついついオフィスレイアウトを考える場合は、作業効率を向上させるにはどうしたらよいかやコンセプトをどうするかなどについて注力しがちですが、法令に適していなかった場合、そこまでに詰めていた計画もやり直しになりかねません。
そうした事態にならないようにするためにも、オフィスデザインの初期段階から法務担当者と連携してオフィスレイアウトを検討することが重要になります。または、そういった観点も含めてオフィスデザイン会社に依頼するのも1つの手です。設計のプロであれば、オフィスに関する法令の専門知識がありますので、自社での工数削減に繋がります。