新型コロナウイルス感染症の感染拡大以前から、「働き方改革」という言葉は国内の労働市場に徐々に普及しだしていて、大企業を皮切りに、オフィス環境にも具現化され始めていました。そこへ来て2020年、コロナ禍によって、オフィスのあり方、求められ方を見直さなければならない状況に直面しています。果たして、オフィスはこれからどのような形に姿を変えていくのか、考察していきます。
働き方改革前後のオフィスの違い
・働き方改革以前のオフィス
「働く場所、働く時間が固定されたオフィス」。これが当たり前でした。それこそ会社が移転したり、働く部署が変わらない限りは同じ景色、決まった面子に囲まれて働くことが当たり前の世界。そのようにオフィスの中のすべての人間が「右向け右」で働く環境は、ある意味日本人には適した働き方だったかもしれません。
・働き方改革による新しいオフィス
ABWやフリーアドレスの採用など、オフィスワーカーは働く場所は固定されず、働く時間もある程度の自由度があり、必ずしも出社ということが求められなくなりました。そして、出社については、コロナ禍によって出社が原則禁止されることなどもあり、その傾向がより顕著に。結果として、オフィスワーカーたちの中で、
「わざわざ出社しなくても、仕事はできる」という考えが定着しました。オフィスの面積を縮小するという流れも出てきています。
つまり出社は「義務」ではなく従業員の「権利」に「ABW」(Activity Based Working)従業員が働く場所(オフィス内外にとらわれず)や時間を、業務内容やその時の気分などに合わせて、自由に選択することができる働き方
「フリーアドレス」従業員にはノートパソコンを支給、デスクは固定席を設けず、机と椅子だけが配置されていて、空いている席を自由に利用できる形式・制度のこと
今後のオフィス需要
「スタートアップ企業、成長期への転換見込み企業の都内へのオフィス移転が多くなるか」
大手企業の中では、テレワークが着実に浸透してきており、オフィス面積を縮小していく(縮小移転)流れが顕著になっています。すでに実施済みの企業、これから計画している企業、本社ビルを売却する企業など、その流れは続いていくと思われます。一方で、首都圏に目を移せば、年商「1億円未満」規模で、新規転入企業の増加傾向は継続しており、コロナ禍に突入した2020年にも関わらず1990年以降で最多を更新した。しかし、「1−10億円未満」の企業は16社減少し、1991年以来29年ぶりにトップを譲ることになりました。また、中には本社機能を東京から地方へ移す企業も出てきています。
オフィス環境の再考に求められる要素
従業員の出社が義務ではなく権利となり始めている今、オフィスは、わざわざそこにいくだけのメリットを有していないといけません。そうでなければ、権利として「テレワーク」を選ぶからです。では、どんなオフィスならば従業員は出社する意味を見いだすのでしょうか。以下が、ニューノーマル時代のオフィスに求められる要素となってくるはずです。
・セレンディピティ
偶発的な出会いや交流、コラボレーションの機会があること、また、何かを探しているときに、探しているものと別の価値があるものを偶然みつけることなど、その場にいたからこそ起こりうるイノベーション
・プレゼンティイズムの解消(健康経営)
フィジカル的なこともメンタル的なことも含め、従業員が健康を維持、増進できる環境が求められます。従業員が出社していても何らかの不調のため、パフォーマンスが伴わない状況では、生産性の低下は否めません
・緑視率の高さ
上記の健康経営にも関わる部分でもあるが、人の視界に占める緑の割合を測る指標で、緑の多さを表すもの。「ストレス軽減」「オフィス内の空気清浄効果」「疲労感を減らす効果」が期待できる。オフィスにおける最適な緑視率は13%と言われている。また、高すぎても逆効果とされてい
る
・従業員エンゲージメント
従業員満足、モチベーション、ウェルビーイングを満たし、反対に従業員からは「I LOVE COMPANY」と思ってもらえる状態への指標であり考え方。従業員エンゲージメントが高い状態では、組織と従業員のベクトルが一致し、業績との相関関係が強い
まとめ
オフィス面積の縮小、テレワークが拡大してきているのは間違いなく事実ですが、その一方で、コミュニケーション不足や、一部の業務非効率性など、物理的な距離感が生み出すデメリットがあることもわかってきました。そして、先述のセレンディピティなども生まれにくいことを、コロナ禍以降、多くのオフィスワーカーたちが実感してきました。裏を返せば、それらを実現する空間として存在していくことになるでしょう。
また、従業員の求める自由な働き方の手助けができる空間。たとえば、ブレストがしやすい、家より集中できる、健康的に働けるなど、選択する理由が多ければ多いほど、“人が敢えて集まるワークスペース”となるでしょう。