日本全体でバリアフリーが重視されるなか、オフィス空間において“あえて段差を取り入れる”という設計思想は、まだ一般的とは言えません。
しかし、私達は、オフィスを「動きが生まれる場所」と捉える以上、段差には可能性があると考えています。段差は、ただ上下の高低差を生むための要素ではありません。人の目線や行動、そして関係性までも変える力を持っています。今回は、段差を取り入れることの具体的な価値と、設計上の注意点について株式会社SPACE PRODUCEが解説します。
1. 段差がもたらす“行動のデザイン”
オフィス設計において最も見落とされがちなのは、「人の流れ」が空間をどのように使うか、という視点です。机や椅子、収納といった“物の配置”に意識が向きがちですが、空間の“高低差”は、その場にいる方の動き方や関わり方を変える重要な要素です。
株式会社SPACE PRODUCEが、これまでに手がけた設計で、段差を取り入れることで最も変化があったのは、「立ち止まる場所」が自然と生まれたことでした。あるオフィスでは、フロアの中央に少し高くなった“デッキゾーン”を設けたことで、周囲の方がふと立ち寄って話すようになりました。結果的に、打ち合わせの数は減ったのに、情報共有のスピードは格段に上がりました。
2. 空間の“リズム”をつくる段差
段差は、空間を分けるのではなく、“空気を変えるスイッチ”にもなります。同じフロアであっても、ほんの少し床の高さが変わるだけで、人の心理は「別の場所に来た」と感じやすくなります。この感覚の切り替えが、集中とリラックスのバランスを自然に生み出してくれます。
たとえば、集中作業を行うエリアの床を一段下げ、周囲と視線が合いにくい構造にすると、その空間に入るだけで気持ちが切り替わります。一方で、意見交換の多いコラボスペースを一段高く設定すれば、自然と人が見渡せて、誰に声をかけるべきか直感的に分かります。
3. 段差とバリアフリー、両立する設計視点
段差を肯定的に語ると、「バリアフリーに逆行しているのでは」とのご意見をいただくことがあります。しかし、我々は“段差を取り入れながらもバリアフリーを担保する”という設計が可能だと考えています。
実際に私たちが設計したあるオフィスでは、床を20cm上げたゾーンにスロープを併設し、視覚的にも美しい一体感を持たせた空間を実現しました。段差があることで視認性が上がり、かえって「そこに誰がいるのか」が見えやすくなったという声も届いています。
段差は排除すべき障壁ではなく、使い方によってはむしろ“オープンさ”を促進する仕組みになり得ます。
4. 投資対効果をどう捉えるか
もちろん、段差を設けることで施工費は上がります。ですが、単純なコストの増加だけで判断すべきではありません。段差によって、従業員の皆さまの動きや会話が促進され、結果的に意思決定のスピードや業務の効率が向上すれば、それは「空間が経営に貢献している」という証拠です。
段差は“家具や内装の延長線上”ではなく、“戦略としての設計要素”です。この視点を持てるかどうかで、オフィス空間の価値は大きく変わります。
最後に
段差を取り入れたオフィスづくりには、設計者としての視点と、経営者の皆さまの意思が両輪で必要です。「段差をどう作るか」ではなく、「段差をどう使うか」がポイントになります。
今あるオフィスに少しでも“変化”や“流れ”を加えたいとお考えであれば、段差という選択肢を一度検討してみてはいかがでしょうか。
ぜひお問い合わせフォーム(https://spaceproduce.jp/CONTACT.html)からお気軽にお問い合わせください。株式会社SPACE PRODUCEでは、働く方のエンゲージメント調査やヒアリングを実施し、ただの設計・内装作業にとどまらず、経営者、従業員の皆さまにとって、より良いオフィス空間をご提供いたします。